誰がために鐘は鳴る。水谷吉法『HANON』。

Reviewed by Tomo Kosuga

1987年に福井県の自然豊かな土地で生まれた水谷吉法は上京後、都市と自然のカオスな調和を写真に描いてきた。『TOKYO PARROTS』では都市に増殖するセキセイインコの姿を、『YUSURIKA』では河川で増殖するユスリカを、写真でこそ描くことのできる姿として私たちに見せてくれた。

才能豊かな若き写真家が今回見せてくれるのは、またしても都市における生き物の蠢く姿だ。

川鵜(かわう)、という鳥をご存知だろうか。全長81cm。全身ほぼ黒色の、ガチョウほどもある大型の水鳥だ。本作では都市で異常繁殖した川鵜たちの姿を追う。まるで京都の鴨川を等間隔で座るカップルよろしく、都市の電線を無数の川鵜が占拠する。水谷はその景色に旋律を感じ取り、ピアノの教則本から「ハノン」と名づけた。

1960年代には、国内の水質汚染から一度は絶滅の危機に瀕した過去を持つ川鵜。その後の環境改善によって奇跡的に数を増やした結果、皮肉にも現在は狩猟鳥獣に指定されている。誰がために鐘は鳴るのか。私たちの生活のすぐ近くで川鵜たちは人の手によって殺められ、その命の灯火が消えることは私たちにまったく無関係のようには感じられない。

都市と自然の共存、そして衝突という二律背反を提示しながらも、都市の景観を損なうと揶揄される電線と漁業被害をもたらす害鳥のコンビネーションをかくも美しく描いて見せた。造本も美しい。ハノンよろしく、ページをめくるたび、まるで鍵盤をなぞるように厚くなったり薄くなったりする。指の感触とめくる音に変化を確かめられ、本という形式でこそ体感できる『HANON』が存在している。

【今回の関連書物はコチラ】

   

この記事の著者

トモ・コスガ

トモ・コスガ

1983年生まれ、編集者。フォトグラファー・新田桂一に師事後、VICE MAGAZINE JAPAN編集部、EYESCREAM編集部、VICE MEDIA JAPANを経て独立。現在は故・深瀬昌久の作品管理と普及を目的とする「深瀬昌久アーカイブス」ディレクターを務めながら、主に写真関連の記事を書いたり、家事をしたり、ジムでマッチョを夢見たり、クワガタを飼育・採集、と多岐にわたって活動中。

http://www.tomokosuga.com/

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