インドの売春街に生まれた子どもたちが、自分たちの撮った写真で運命を変えた話。

born into brothels写真は誰にでも撮れる。テーマはいくらでも、目の前に広がっている。もしかすると希望に満ちあふれた未来すら、レンズの先に見えることがあるかもしれない。極端な話、シャッターを押すだけでいいのだ。誰にだってできる。そう、子どもたちだって——。

『未来を写した子どもたち/Born into brothels』は、とある地域の子どもたちにまつわるドキュメンタリーだ。2004年に公開され、同年のアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞。今年9月からは満を持してNetflix Japanで視聴可能になったため、ここに紹介したい。

本作の主人公を務めるのは、9歳から15歳までの子どもたち。彼らだけで遊んでいるときの屈託なき表情からは想像もつかないことだが、彼らが暮らすのはインドのコルカタにある赤線地帯であり、代々売春婦をなりわいとする家系に生まれたのだ。それがなにを意味するのかといえば、夢を希望を持つことが許されない過酷な運命の下で彼らは年を重ねてきたのである。

ここに来る男の人たちはあまりいい人たちじゃない。酔っ払って叫んだり、ひどいことを言う。いつから仕事を始めるんだって訊かれるけど、もうすぐだと思う

表情にあどけなさが残った10歳の少女・コチが語る、この予言めいた証言は、この地で少女たちの身に起きていることを端的に物語っている。

本作の監督を務めたイギリス人ドキュメンタリーフォトグラファー、ザナ・ブリスキは1995年に初めてインドを訪れ、その3年後にはコルカタの売春街に実際に暮らし始めた。現場の売春婦たちを真に写すことは、単なる訪問者としてでは達成できないと考えたからだ。その地で彼らと生活を共にし、彼らの生き様を理解する。するとそのなかで自然と、現地の子どもたちとの交流が生まれていった。本作ではその過程が描かれていく。

本作は大きく分けてふたつのパートに分かれる。ザナが子どもたちにコンパクトフィルムカメラを渡し、写真の撮り方や編集方法、どんな写真が良いのかを教える場面だ。もうひとつは、彼らが写した写真を使いながら、かように悲惨な場所に生まれた子どもたちを救うこと。

一ケタの年齢から雑用の仕事に従事させられ、稼ぎが少なければ叱られる。そんな日々を送る子どもたちだが、ザナとの出会いから、カメラ片手に街へ繰り出すことを覚えた。そこで写した写真をザナに褒められ、それぞれの長所を伸ばしてもらうことから、それまで体感したことのなかった感情が芽生えていく。

その一方で、知れば知るほど子どもたちの悲惨な運命——すぐに売春婦として男に買われる現実が迫っている——ことを肌で感じ取ったザナは、なんとか彼らを寄宿学校に入れられないかと策を練る。そこで彼らが写した、本当に素晴らしいストリートスナップをニューヨークに持ち帰り、展示を行ない、売れたお金を資金にしながら行動に移すことに。

この展覧会は大成功を収め、彼らの自国インドでも新聞に取り上げられたり、また現地でも展覧会を開くことができるなど、ただザナが無条件で彼らを救うのでなく、子どもたちの才能によって道を開くという展開が待ち受けていた。

あまり幸福すぎて時に退屈すら感じてしまう日本にいる限り、忘れてしまいがちな写真の力がこのドキュメンタリーでは確かめることができる。子どもたちは確かに、何代にもわたって背負ってきた定めの下に生きてきた。それでもなにかの拍子で、運命すら揺るがすほどの可能性が自分たちの身にも潜んでいるということを、身をもって体験したはずだ。本作が制作されてから12年が経ったいま、彼らの足取りを調べると、なかにはニューヨークにわたって映画制作を学び、なんとハリウッドでアシスタントディレクターとしてデビューしたという男の子も。ザナが本作を通じて運命を変えた子がいることは確かだ。

なお、本作に似たプロジェクトがここ日本でも行なわれている。後藤由美さん主催の〈Reminder’s Photography Stronghold〉によるプロジェクト「キッズ・フォト・ジャーナル」だ。これは東日本大震災で被災した子どもたちが写真と文章を使って、3/11のその後を世界に向けて定期的に発信するというもの。2011年6月より、岩手、宮城、福島から33人の子どもが参加して始動した。5年目を迎える現在も、その活動は続いている。

『未来を写した子どもたち/Born into Brothels』は、Netflix Japanのドキュメンタリーカテゴリーから閲覧可能だ。定額の契約料で見放題で、なかなか日本では観られなかった作品も少なくない。この機会に登録してみては。

Netflix「未来を写した子どもたち」
https://www.netflix.com/title/60034778

キッズ・フォト・ジャーナル
http://www.kidsphotojournal.org/

この記事の著者

トモ・コスガ

トモ・コスガ

1983年生まれ、編集者。フォトグラファー・新田桂一に師事後、VICE MAGAZINE JAPAN編集部、EYESCREAM編集部、VICE MEDIA JAPANを経て独立。現在は故・深瀬昌久の作品管理と普及を目的とする「深瀬昌久アーカイブス」ディレクターを務めながら、主に写真関連の記事を書いたり、家事をしたり、ジムでマッチョを夢見たり、クワガタを飼育・採集、と多岐にわたって活動中。

http://www.tomokosuga.com/

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