改めていま、石川竜一とは何者なのか。

写真が持つ「暴力」との向き合い方。

一般的に、写真家は写真行為を重ねていくことによって、あるいは写真について考えるうちに、写真の持つ暴力を知るものだと思います。

写真はそれ自体が発明された頃から「写ると魂を抜かれる」などと言われていましたし、昨今のスナップショットにおける肖像権の問題、あるいはなにをもってオリジナルとするかなど、写真はともすると誰かの権利を侵害しがちです。だからでしょう。写真家たちは誰よりも写真の傷つける力を熟知していて、撮るからには迷惑がかからないように心がけてきました。

こうした写真の性質を性善的に捉えるなら、それは「複製」という能力であって、本来はオリジナルを損害するものではないはずなのに、どこかで利用されたとき、被写体たちは「消費された」と感じ、抵抗を示すのでしょう。つまり、写真が持つ暴力=自分のしらないところで消費されるかもしれないという生理的な嫌悪感、でもあると。

ポートレートは鏡。それはあなた自身。

石川竜一さんやダイアン・アーバス、あるいはインベカヲリ★さんの場合、彼らの写真が秘めた力は、従来の作用とは異なるベクトルにあるように感じられます。被写体となった人々は、これらの写真家たちが自分たちの見た目やおかしさに関心があって撮っているのではないことを、明確に把握している。むしろ自分たちのなかに共通項を探すために、彼らは撮っているのだと。

そうでもなければ、当時「フリークス」という単語のなかに乱暴に押し込められてしまった人々が、アーバスの侵入を許すことはなかった。インベさんの下に女性たちは集まらなかった。そして石川さんが3,000人という人々を撮影することは叶わなかったはずなのです。写真は一見、写真家たちが写真の先で掴み取ろうとするものを知ることが重要なようでいて、実は写された人々がカメラの先に見つめるものはなんなのかを知ることの方が大切なのかもしれません。

かつてドイツ写真の第一人者、アウグスト・ザンダーは言いました。「ポートレートは鏡である。それはあなた自身だ」と。この鏡の表面を磨けば磨くほど、それは不思議なことに、写真家の手を離れてもらお、あるいは私たちにとっての鏡にもなり得る。トモ・コスガはここに、石川竜一の醍醐味があるように感じられました。

最後に、石川竜一さんの写真集『okinawan portraits 2010-2012』のあとがきの一部を抜粋して筆を置くことにしましょう。

写真には自分の意識を超えたものまで写ってしまう。それを知っているにもかかわらず、写真について語り、思いを巡らせていくなかで、それがもともと自分のもっているもののような、高尚な気分に浸ってしまう。しかし、それは全部後付けに過ぎず、本当はただ、その人と、その場所で、その時にしかない、写真との出会い。それだけだ。

そんななかで写真はいつも語りかけてきてくれる。「お前が探しているのはこれじゃないのか」と。しかし、それも断定はできないのだ。多分、永遠に。

あ、それとダイアン・アーバスはこう遺しています。

小びとであるというのはどういうことか私にはわからない。しかし小びとと一緒にいるということはどういうことか、それはわかる。

いやあ、写真ってホント、おもしろいですねえ!

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田附勝さんと石川竜一さんの2人展『東北・沖縄』は19日(月)まで。会場は「伊藤忠青山アートスクエア」です。

田附勝・石川竜一写真展「東北・沖縄」
http://www.itochu-artsquare.jp/exhibition/2016/photography0907.html
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それからインベさんも今月末から個展をやるようですよ。恵比寿・アメリカ橋ギャラリーにて、9月28日(水)から10月10日(月)まで。そして展示タイトルは……『境界侵犯』! これは期待大だぁ!
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※この記事を公開するにあたり、発言の引用や諸許諾をくださいました石川竜一さん、田附勝さん、インベカヲリ★さんに感謝いたします。
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この記事の著者

トモ・コスガ

トモ・コスガ

1983年生まれ、編集者。フォトグラファー・新田桂一に師事後、VICE MAGAZINE JAPAN編集部、EYESCREAM編集部、VICE MEDIA JAPANを経て独立。現在は故・深瀬昌久の作品管理と普及を目的とする「深瀬昌久アーカイブス」ディレクターを務めながら、主に写真関連の記事を書いたり、家事をしたり、ジムでマッチョを夢見たり、クワガタを飼育・採集、と多岐にわたって活動中。

http://www.tomokosuga.com/

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