飯沼珠実『三つ目の建築 – 書籍、住居そして森』

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飯沼珠実さんは、パリと東京を拠点に活動するアーティスト。元々気になっていた方だったのと、今回は俺が勝手に商売敵だと思っているPOSTで展示されているっていうのと、写真集も出版されるって聞いていたので、これはウチで扱いたいって思って。じゃ、行ってみるかって思って。

POSTっていうのは中島佑介さんが立ち上げたギャラリーを併設した書店で、写真集好きの方にもファンが多く、悔しい限りの素敵な店。山谷佑介さん、濱田祐史さん、ネルホルなどといった写真家の展示のほか、オランダのヨハン・ファン・デル・クーケンの日本初個展や、オランダのグラフィックデザイナー・Mevis & Van Deursenの展示など、いつも面白い展示もやってる、悔しい限りの素敵な店。

今回の飯沼さんの展示は、POSTの落ち着いたギャラリースペースに、静かに美しくかかる写真作品。初めは「ずいぶん少ないな」って思ったけど、その分、一点一点じっくり隅々まで見れるし、ひとつひとつ考えさせられる。まるで作品が窓かのように、POSTの空間に作品が溶け込んでいる。会場と作品が一体化した展示とでも言えばいいのかな。

気になる展示作品は、建築物と森の風景が組み合わさったもの。建築が受け取る光と影、そこに森が意識されることで、異空間というか不思議な世界が意外と身近にあったことに気づかされたり。なんていうか、久しぶりに上野の森に行きたくなった。

 

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TSK今回、写真集の出版にあわせて個展って聞いたんだけど、写真集作るまでかなり時間掛かったとか。その辺の話少し聞いても良い?

飯沼珠実:わかりました。まず今回の写真集が完成するまでに1年近くかかって。これは一般的な写真集制作に比べるとかなり遅い方のようです。今回一緒に制作したPOSTの中島さん、デザイナーの田中(義久)さんに初めてお会いしたときは「飯沼さんってどういう人?」というか、そういうところから始まっていった。

いま振り返ると、1冊の写真集をまとめ上げる作業って、お互いのことをよく理解していないとできなくて、そこに時間がかかったと思います。

 

元々、大西さん(日本の出版社兼書店「shashasha」代表)から話があったの?

そうです。大西さんとは2014年のPolycopies(毎年Paris Photoと同時期にパリで開催されるブックフェア)で知り合って、その時に店番の手伝いをしました。

それで年が明けた頃、大西さんから「飯沼さんの写真集を作りましょう」と受けたのがきっかけで、今回の写真集企画が立ち上がりました。版元は「shashashaからでも良いし、他でも良いよ」と。内容はどうする?とか、どういう形で出す?とか、すべてがオープンな状態から始まったんです。

 

写真はいつから始めたの?

17歳です。高校の時にアルバイトをして、ニコンFM2ボディと標準レンズを1本買いました。

 

影響受けた人とかいるんすか? 17歳くらいの頃とか、始めた頃とかに面白いなって思った人とか。

んー………。誰だろう。具体的に誰というのは思い出せないのですが、STUDIO VOICEの『写真集の現在』特集号は、バックナンバーまで探して集めていたのを憶えています。そういうものを見ていて、ここに載っている写真と自分の写真はなにが違うんだろうと思いました。

写真って、パッと誰でも撮れちゃうじゃないですか。大学で先生が「これはいい写真だ」とか、「これはあまり面白くないね」とか、そういう判断基準みたいなものがどういうところからやってくるのかなーと、不思議でした。

 

飯沼さんって普段もパシャパシャ写真撮ったりするの?

撮りますよ。パシャパシャって撮ってみて、いろいろなことに気がつきます。スケッチみたいな感じで、パシャパシャ撮ります。

 

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今回展示してる作品はデジタルだけど、アナログ的な手法だと多重露光になるの?

フィルムの多重露光の面白さって、集約すると偶然性に尽きますよね。ただ今回の作品では、わたしは絵の絡まりを能動的にコントロールしかったので、とにかくたくさんのパターンをテストして、感覚的にこれはいいかなと思えるものをセレクトしました。

 

展示点数をかなり絞ってるけど、最初からそういう風にしようと思ってたの?

POSTという空間は、本棚から床板まで中島さんがDIYでつくってきたそうで、そういう話が面白くて好きでした。だから中島さんが作り上げた空間を包括したような展示を組みたいと思ったんです。自分の作品を配置することで「POSTってやっぱりいいよねー」みたいな再発見ができるような空間にしたかった。

 

本も素敵ですね。田中さんのデザインなんですか?

はい。仕上がったものを見たとき、舞い上がるでも撃沈するでもなく、ほっとしたような気持ちで「あ、できた」と思えました。さりげないようで、あらゆる配慮が計算されたこのデザインのエネルギーを感じました。

 

編集は?

中島さんと田中さんの意見を仰ぎつつ、自分でやりました。

 

編集中に迷った時ってどうするんすか?

ダミーブックとたくさんの時間を過ごすようにします。一緒に寝るとか、そういうレベルです(笑)。それから、様々なフォーマットで見てみるようにしています。

まず小さなサイズのプリントを壁一面に貼ってみたあと、張り込みでブックにまとめます。そこからパソコンでの作業に移ります。InDesignの作業画面やPDFのプレビュー、書き出した画像をブラウザで見たり。様々なフォーマットで見ることで、細々としたマイナーチェンジの必要性に気がつくことがあります。

 

今回の写真集作りで一番大変だったのは?

これまで自分ひとりでたくさんのアーティストブックを作ってきて、自分の活動拠点だったドイツやフランスでは多くの反応を得ていたので、ある程度のアートディレクションは自分で出来ると思っていました。その一方、これまでは全て1人で作っていたので、今回はチームだからこそ出来ること、チームのポテンシャルを最大限に引き出したいという想いがありました。

そうした時に、自分がどう立ち回るべきなのかという判断はとても難しかったです。分業化された役割ではなく、互いに引き出し合っていくというか、「空気を読む」ってことなのですかね。わたしは上手に空気が読めるタイプの人間ではないので、その辺りは大変だったかもしれません。

制作の初期、中島さんから「僕たちを信じて下さい」というメールをもらって、わたしは赤面しました。なかなか言わないし、言えないじゃないですか、そういうこと。中島さんからの思いやりだったのだと思います。そして完成した写真集を見た時、なぜ中島さんがそう言えたのかがわかって尊敬したし、今後同じメンバーで制作することがあれば、クオリティはもといスピードは圧倒的に上がる自信があります。

 

もうなにか次のことやってるの?

別の版元でですが、年内にドイツの建築家ブルーノ・タウトの建築シリーズの写真集を出版予定なのと、その個展をする予定です。

 

新しい本の話も少し聞いたんだけど、また別の機会に。難産の末に産まれた写真集、内容もデザインもとても良いので是非ご覧になって下さい。

 

 

 

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写真家・飯沼珠実の初となる作品集『建築の建築 - House of Architecture』の刊行を記念し、展覧会「三つ目の建築―書籍、住居そして森」を開催。写真集から抜粋した作品とインスタレーションから構成される展覧会。

通学路となった上野の森には、ル・コルビュジエの日本で唯一の建築作品、国立西洋美術館がある。それに向かい合う位置に前川國男の東京文化会館がある。前川國男は、ル・コルビュジエの弟子で、国立西洋美術館建設をサポートし、またその新館を手がけた。その先を進むと、木々の隙間から、ダークトーンの赤紫色をした煉瓦の積み重なりが見えてくる。これが、わたしが上野の森で一番好きな前川國男の建築作品、東京都美術館だ。東京都美術館が、わたしの日常的な風景に在りはじめて、この建築の姿やかたちだけではなくて、呼吸のリズムや内包する熱量のようなもの、上野の森との関係性、特に森との距離感の調律に気を惹かれるようになった。

森がみせる多様な表情、毎日の天気や日差し、流れる季節と繰り返す樹木の繁茂と落葉、そういった森の営みと、とても密接に関わり合っているようなのだ。そして樹木たちも、前川建築を背景に嬉々として、舞でも舞っている様子にみえてくる。東京都美術館は、上野の森の住人なのだと感じるようになった。

もうひとつ興味をもった感覚は、この建築が自分の目にどう映るかが、毎日の自分の気分や状態の指標、心鏡のような存在になりはじめていたことだ。うれしいことがあった日には輝きが増してみえた。何度目をこすって霞んでみえる日には、自分の緊張や抱えているプレッシャーに気がつかされ、森の中で深呼吸をした。また挑戦の日には、拝むような気持ちでみつめては、背中を叩いてもらったような気になっていた。

ひとによってはそれが、食べるものであったり、着るものであったりするのだと思う。いつものコーヒーをいつも以上に味わい深く感じたり、逆に味を感じることすら忘れてしまう日もあるように。

(飯沼珠実「建築の建築」より)

 

飯沼珠実(Tamami Iinuma)

東京都生まれ。2013 年より東京芸術大学大学院博士後期課程、2014 年よりシテインターナショナルデザール・パリにて、 都市建築と書籍の相関をテーマに研究制作活動に取り組んでいる。 

 

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写真集「建築の建築 - House of Architecture」(POST刊)
写真:飯沼珠実
プロジェクトディレクション:大西洋 (shashasha Co.,Ltd. 代表)
アートディレクション:田中義久
執筆:大島忠智 (IDÉE バイヤー)、ティボ・ドゥ・ルイテ (建築家、キュレーター)、富永譲 (建築家、法政大学名誉教授)、飯沼珠実 (アーティスト)
仕様:182mm x 230mm / 80 ページ / フルカラー
予価:3,600円 + 税

 

information

会期:2016年1月30日(土)〜2月18日(木)
会場:POST
   東京都渋谷区恵比寿南 2-10-3
           12:00 - 20:00 月曜休

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