高木美佑『きっと誰も好きじゃない。』001人目

2016年10月2日(日)新宿にて

メッセージを送ってきたのは、彼の方からだった。Kさん、34歳。

最初のメッセージからすぐ食事に誘われた。そこで日曜の昼に新宿で、お昼ご飯を一緒にすることにした。人通りの多い場所だし、「夕方から用事があるのでランチだけなら」と制限を設けつつ、会うことにした。メッセージの文章は短いけれど、とても丁寧な印象だった。

待ち合わせ時刻は11時半。Kさんはその5分前に着いていた。第一印象の彼は、メガネをかけてシャツを着た、とてもおとなしそうな人。

彼はアプリでのプロフィールに、顔写真を載せていなかった。だから「顔写真が見たいな」と頼むと、画質の悪い、小さなサイズの、顔もほとんどわからないような写真を送ってきた。その時はなんとなく、自分に自信がない人なのかなと思っていた。メッセージでのやりとりでは積極的だったけれど、実際にはその正反対の雰囲気だった。

「はじめまして」——お互いに挨拶する。いつの間にか私は、自分で自分の髪の毛を触っていることに気づいた。これは私の良くない癖で、落ち着かないときや困ったときに髪の毛を触ってしまう。彼に会ってすぐ、それが出たのを自覚した。

「なにか食べたいものはある?」と訊かれたので「なんでも大丈夫」というと、Kさんは「とりあえずあっちの方へ歩いてみようか」と歩き始めた。どこか目的地でもあるかのようにグングン歩いていく。たわいもない会話をしながらも、私は一抹の不安を抱きつつ、彼についていった。入ったのは、駅からそう遠くもない雑居ビルの中にある和食屋さん。

そういえば彼のプロフィールに、「落ち着いた雰囲気のところでゆっくり過ごすのが好き」と書いてあった。薄暗い店内に、申し訳程度に自然光が差し込む。静かで個室が多く、いかにもゆっくり話ができそうなお店。

ランチはバイキング形式。席について、店員さんから90分間の時間制限があると説明されたとき、心のなかでホッとした。それ以上はお店にいられず、外に出られるという確約ができたから。食事をとりに行く前、Kさんが自身のiPhoneを胸ポケットからショルダーバッグにしまう仕草を見て、きっと几帳面な人なのだろうと思った。

名前を聞かれた。そういえば教えていなかった。そんなことも伝えていなかったのに、Kさんは私に会ってくれていた。私は「みゆです」と言った。

今年の夏、家族でタイに行ったらしい。会う前に送られてきた写真も、タイで撮られたものだった。私も来月旅行に行くのだと言うと、タイの写真を見せてくれたり、ご飯のことなどいろいろ教えてくれた。タイの人はみな優しいと言っていた。

「どんな仕事をしているの?」と訊かれ、「ウェブマガジンの編集アシスタントみたいなことをしている」と嘘をついた。彼は、それが嘘だということにも気づかない様子で、まじめに私の話を聞き、質問してくれた。

貝殻の右回りと左回りはどうやって決まるのか?という話をした。どうやら南半球と北半球で分かれるという説はデマで、結局は遺伝の問題らしい。

出身を訊かれた。関西だけれど、生まれてすぐに引っ越したので記憶がないと答えた。私は彼の出身を訊き忘れた。

大学でなにを勉強したのかと訊かれた。「文理学部の哲学科」と、適当すぎる嘘をついた。そういえば高校で1番仲が良かったけれどもう一切連絡がとれなくなってしまった友人は、文理学部の哲学科だった。

彼は、SHARPが台湾の企業に買収されてしまったという話をしてくれた。なぜ台湾の傘下へ入ることを選んでしまったのか、なんて話たっだけれど、正直なところ難しい説明はあまり覚えていない。どうやらSHARPは雇用を守りたかったけれど、結局なにも守れなかったらしい。

すごく小食だった。絶対にバイキングの元はとれていないと思う。

「14時までに渋谷へ行かなきゃ」と言うと、Kさんは「じゃあそろそろ出ようか」と答えてくれた。会計を済ませ、ビルの外へ出るとすぐに「僕は買い物をして帰るから」。私はすかさず「さっきコンビニで使い捨てカメラを買ったから、記念に1枚撮ってほしい」と伝える。

私は「使い方よくわからないの」と嘘をつきながらカメラを渡して、「どうしたらいい?」と訊いた。ちょうどさっきまでいたお店の看板がすぐ横にあったので、「そこに立って」と言われ、撮ってもらった。

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私は「ちゃんと撮れてるのかな?」とさも分からない様なフリをしながら、彼の足元を撮った。「間違えてシャッターを押しちゃった」と誤摩化した。

「じゃあまた」「また時間があったらお茶でもしましょう」——ここでも私は嘘をついた。

その後、彼とは一切連絡をとっていない。彼から連絡が来るわけでもないし、私からも連絡していない。今月で仕事を辞めて、その先のことは特に決まっていないと私が話したとき、彼は少しうつむきながら「なんかうらやましいな~」と言っていた。彼は私を、ふらふらした人だと感じたのかな。

彼は大学院を出て就職。まじめな人だということは、話していて伝わってきた。そんな彼にとって、地に足もついていないような女と真剣に付き合おうだなんて、微塵も考えないだろう。きっとまともな四大を出て、保険会社か歯科衛生士をやっていて、淡いワンピースを着ているような女性が好きなんだろうな。支払いはワリカンだった。

出会い系で出会うべくして出会ったはずなのに、そういえば彼の好きなタイプを私は訊いてもいなかった。

高木美佑ウェブサイト
http://www.takakimiyu.com/

トモ・コスガ「十代終焉に見るアンゴルモア大王の巨影と進化論」
http://www.tomokosuga.com/articles/miyu-takaki/

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この記事の著者

高木 美佑

高木 美佑写真家

1991年生まれ、東京都在住。2014年、日本大学芸術学部写真学科卒業。
Official Website: http://www.takakimiyu.com/

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