高木美佑『きっと誰も好きじゃない。』002人目

2016年11月8日(火)渋谷TSUTAYA前にて
39歳 Pさん

最初のメッセージから会うまでのあいだに、けっこうな数のやりとりをした。

出会い系アプリのプロフィールに彼の顔写真は載っていなかったけど、落ち着いた文面なので大人なのだろうと思っていた。お互いに質問を投げかけ合うというよりは、向こうが近況報告のようなメッセージを送ってくる感じ。忙しい人のようで、ちょっとした空き時間にメッセージを送ってくれていた。

しばらくして、LINEでやりとりをするようになってからも、それは変わらなかった。SNSで独り言をつぶやくように「仕事終わった〜」とか、「疲れた〜」とか。

LINEでのプロフィール画像は彼のものと思われる顔写真で、デザイナーというだけあって、お洒落な雰囲気の人。私もすぐにメールを返すタイプではないので、お互いに一息ついたとき、声をかけ合う関係になっていた。仕事の納品が終わると、よく独りで飲みに行っているようだ。そのうち、タイミングが合えば飲もうという話になった。

初めてメッセージのやりとりをしてから1ヵ月以上が経った、ある夜。その日の予定がもろもろなくなったのをまるで見計らったかのように、独りで飲んでいるという旨のLINEが彼から届いた。「これから帰るところ」と伝えると、「そっちまで行くから一杯飲もうよ」と。時刻は22時を回っていたが、終電までには絶対に帰ると約束をし、彼がやってくるのを待った。

なんとなく、彼は危ない人ではないだろうと感じていた。

それまでのやりとりで、彼は「芸術家になりたかった」という話をしていた。私はその話に興味があり、じかに会って話を聞いてみたいと思っていた。

実際に会ってみると、意外に明るい人だった。

私は勝手に、忙しすぎて遊ぶヒマもなく、仕事一筋のおとなしい人をイメージしていた。それももしかしたら、私と会う前に彼がホッピーを2杯飲んできていたせいかもしれないけど。

駅近くの焼き鳥屋に向かうことにした。

ちなみに彼が独りで飲んでいた1軒目も焼き鳥屋だったらしい。店までの道中でいまの仕事のことを訊かれ、「もう辞めてしまって、今はニート」と答えると、「僕もそんなようなものだ」「お互い堅気じゃないね」と笑っていた。そのお店は24時間営業だったので、うっかり終電をなくしてしまわぬように気をつけようと身構えた。

2人で、ビールを飲んだ。

枝豆がきて、彼は枝豆のつぶを取り皿にすべて出し、それをお箸でつまんで食べた。

平日の夜なのに店内は繁盛していて、とても騒がしかったので、彼の話を聞くために必死に耳を傾けることにした。私は仕事を辞め、語学留学に行く予定だけど、その後どうするかはっきり決めていないと言うと、「アーティストになりたいんでしょ?」と訊かれた。その問いに対して、私はなんて答えたのか忘れてしまった。

彼は彫刻家になりたかったらしい。

絵も描いていて、社会人1年目では世界的に有名な建築家のアトリエで働いていたけれど、クビになってしまったと。

アイドルオタクだと言っていた。

ライブハウスへもよく行くらしい。そこには毎回ライブを観に来るコアなファンが必ずいて、彼らは得体が知れないと言っていたけど、きっと向こうも彼のことを同じように思っているに違いない。

結婚だとか、恋人の話。

彼氏はいるのかと訊かれ、いないと答えた。いたら留学になんて行けない、仕事も辞めたし、失うものがなにもないから行けるのだと言った。でも本当は、大切なものも失いたくないものもたくさんある。

彼はバツイチで、子供もいるらしい。

最初「コブもいる」と言われ、それがなにを指し示しているのかわからなかった。けれど一人暮らしでもなく、叔父の家に居候をしていると話していたので、なにかしら事情があるのだろうとは思っていた。叔父の家に住むようになり、自分だけの帰る場所が無くなってしまったように思うと語っていた。

おしゃべりな人だった。

店内がうるさくてよく聞こえない事も多かったけど、ニコニコと笑いながらずっと話をしていた。

24時前頃、お互いのジョッキのお酒がなくなったタイミングで、そろそろ出ようということになった。お会計を済ませ、駅までの道のりで、「記念に1枚、撮って!」と彼にカメラを渡した。そういうメディア系の仕事をしているせいなのか、特になんの疑問も抱かずにカメラを受け取り、楽しそうに1枚撮ってくれた。

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撮ってくれたあと、「HIROMIXみたいになれるかなー?」とふざけていた。

彼はだいぶ酔っぱらっていたと思う。私も少し酔っぱらっていたのだなーと、あがってきた写真をみて思った。

別れてしばらくすると、彼から「電車を乗り過ごしてしまった」とメールが届いた。

 

【こちらの記事もあわせてどうぞ】

高木美佑『きっと誰も好きじゃない。』一人目
http://wearetsk.com/miyu-takaki-001/

高木美佑ウェブサイト
http://www.takakimiyu.com/

トモ・コスガ「十代終焉に見るアンゴルモア大王の巨影と進化論」
http://www.tomokosuga.com/articles/miyu-takaki/

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この記事の著者

高木 美佑

高木 美佑写真家

1991年生まれ、東京都在住。2014年、日本大学芸術学部写真学科卒業。
Official Website: http://www.takakimiyu.com/

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