山下隆博は14年同じ部屋に住み続けながらインドと福島、故郷の北海道を旅し、大地の日常、人々を蝕むもの、変わるもの変わらないものを見つめる。

山下隆博くんとの出会いは、2014年の夏。リブロアルテ主宰の一花義広さんに声をかけてもらって、川崎市市民ミュージアムでポートフォリオレビューのレビュアーを務めたときのこと。

帰り際、嵐になってきたんで足早に立ち去ろうとしたとき、一花さんから山下くんを紹介してもらった。「これ、もらってください」って、両手で本を渡された。すんげえ深く頭を下げながらなんだけど、オレのことは凝視したまま、なぜか眉を下げ、いかにも不機嫌そうな表情だった。不思議とイヤな気持ちはせず、なんかいいなって思っていた。

渡された本は、彼の処女作『吹雪の日/凪の海』。初対面の印象とは裏腹に、控えめだけれど心の落ち着く雪景色がカバーに採用されていた。ページを開くと、彼の故郷の北海道を舞台に、彼の家族や身の回りの人々の日常と、そして地元にある原発をえがいたものだった。

腹を大きく孕ませた女性、抱き合う男女、家族、台所。変わらないものと、3.11を区切りに全く変わってしまったもの。変わったものを劇的に描こうものなら、もっと分かりやすい切り口もあったんじゃないかと思うんだけど、それでも彼は自分の眼差しを信じながら地元と向き合っていた。

そんな山下くんの新しい個展。テーマはズバリ「原発と東京」。デモと福島を見せつけるという。はてさて、どんな展示なのだろう?と期待に胸が膨らんだ結果、山下くんの話を聞きたいと思い、家まで押しかけてきた。

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最寄り駅まで迎えに来てくれました。今回の主人公、山下隆博くん

お邪魔しまーす! ここは何年住んでるの?

14年くらいかな……

ながっ! そして、ここがFacebookで話題の机。

みんな言うんですよね、「汚い机の人ですよね?」とか。

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www。

あ、あんまり大きな声出すと……

あ、周りに怒られる?

隣りが、小太りのおっさんで。隣りのイビキがうるさくて寝られないからカベ叩いたら、うるせえ!って言われた。

逆ギレじゃんw。

チョーこえーと思って。それ以来、闘うの止めました。

ところで山下くん、ネコ好きだよね。

好きっすね。

ここで飼ってはいないの?

1ヵ月家を空ける人間がネコを飼えると思いますか(笑)?

え、そんなにいないの?

実家だと2、3週間出ちゃうし、インドに行けば1ヵ月半くらい空けちゃう。

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それは撮影で?

現場に入るまでに、3日4日かかる。それも電車がちゃんと動いていればの話。動いていなければ1週間かかったり。それに加えて駐在2、3週間やって。余った時間で、リゾートでビールを飲み……

それが目的じゃなくて?w

いやいやいや。

そういう取材はインドだけなの?

インドだけですね。

なんでインドだったの?

写真学校に行ってたんですけど、バックパッカーやっている人が多かった。それで俺が「スペイン行きたいんだよなあ」とか言ったら、「やっぱインドだよぉ!」って言われて。

誰から?

友人3人くらいから言われました。

写真ならインドだと。

わかんない。安いからじゃないですか。

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インド行くとなにかが開いちゃう、っていうのはよく聞くよね。

そう。初めて行ったのが18歳。東京に出てきてすぐのことだった。

18でインド! 最初はどんな感じだったの?

とにかく、右も左も分からない。コワいなあ~とか。

東京に出てきてすぐにインドって言ったけれど、それまでは故郷の北海道だったってこと?

そう。それで東京出てきて。それこそ、おっぱいパブってあるじゃないですか。おっぱい揉み放題って聞いてるんだけどって言うと、みんなは逆に驚くという。

え、いまのどういう意味wwwwww?

故郷は、そんなのないようなところじゃないですか。すごいところだなと思って。

行ったの?w

行ってないんですよね、これが。おっぱいパブは1回しか行ったことなくて。

行ってるんじゃんw。

3年前くらいですけどね。地元の友だちの、結婚式の二次会で。札幌。

地元にあるんじゃんw。

札幌に住んでなかったから。

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でも東京に出てきた年に、さらにインドでしょ? 東京でもカルチャーショックを受けたのに、インドじゃさらにでかいのを受けたんじゃない?

あー。それはそうかもしれないですね。

(かわされたw)初めてのインドはどれくらい行ってきたの?

そうですね、3週間くらい。

へー、1人で!

誰が一緒に行ってくれるんですか。

知らないけどw。じゃあホントに右も左も分からずに。

分からないですよ。英語も3点だったから。

何点満点中の?

100点満点中の。

w。3点分はなんの答えが当たったの?w

そんなことちょっと覚えてないけど(笑)。それで行ってるわけだから。

じゃあ行動力があるんだね。

その頃はあったんじゃないですかぁ。

その頃はw。

そのあと、2回行ったんですね。1回目はフィルムを無くしちゃったですよ。だから観光程度で終わった。でもインドに興味を持てたから、さあマジメに取り組もうと思った矢先、AFP通信のウェブサイトでインドでの自殺の話を読んで。

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オレンジジュースを頂きました

へー。

じゃあ、その現場に行ってみようと。実はヒンドゥー語も習ってたんです。拓殖大学のオープンカレッジで。それで、海外で作品を作るならインドにしようと本格的に決めた。

ちょっと話が遡るけど、インドって自殺率が高いの?

実際、高いっちゃ高いですね。都市部でも。学歴社会みたいなもので。そこはまた特殊で。デカン高原というところがあって。そこでは綿花栽培を昔からやっていて。

え、綿花?

コットン。

あー、はい。

それが10年くらい前から、モンサントっていう会社あるじゃないですか(※編注:多国籍バイオ化学メーカー。遺伝子組み換え作物の種などを手がける)……

ちょっと待って、キーボードにはカバーがついてたんだ!

そうっすよ? ほら。

とんでもない色してるなと思ってたら!

チョーきれいっすよ?

キーボード、実はきれいだった

キーボード、実はきれいだった

で。

10年くらい前から、モンサントっていう企業が入ってきて。栽培方法が変わった。トラディショナルなヤツじゃなくて。昔は〝刈って、種とって、また埋めて〟だったけれど、遺伝子組み換えの種は翌年とったらダメなんですよ。

え、1年しか育てられないじゃん?

そう。毎年種を買って。それに合った農薬を買ってという。そういうサイクルになっていった。最初は良かったんでしょうけれど、そのうち収入と支出がバランスとれなくなっていく農家が増えた。挙げ句の果てには借金して、自殺を選ぶ人も出てきた。

じゃあ日本や韓国みたいな漠然とした自殺率じゃなくて、具体的な理由があっての問題が生じているんだね。

日本では話題にならないけれど、アメリカやイギリスではよく話題になるんですけどね。2年間で3回取材したのかな。それを、2010年にニコンサロンで展示しました。23歳くらいで撮った作品。

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読者の皆さんのために、山下君のサイトから説明を引っぱってきました。

インド中部、デカン高原に位置するヴィダルバ地区。広大な畑では綿花が主に栽培されている。牛がいて、川があって、人々の営みがあって、延々と続けられてきたであろう光景が流れている。

コットンベルトと呼ばれて久しいこの地であったが、今ではスーサイドベルトと呼ばれ年間1000人以上の人達が自ら命を絶っている。その大多数は家長である男性だ。

じゃあトータルで何回行ったの?

3回ですね。

その都度、資金をためて。

やってましたねえ。

ここまですっげえシリアルな話なんだけど……

うん、シリアルねえ。美味しいよねえ。

シリアス(笑)。舌が回らないのw。

インドは23、4歳でいったん完結させましたね。2年前か3年前の冬に、インドで5個テーマを決めて写真集を作るっていうのを目標にして。

なんで5だったの?

え、キリがいいから……(笑)。

まあ確かにw。

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で、テーマは?

1つ目は、さっき話したコットン。この前行ったのは、ボパールっていう、マッディヤ・プラデーシュ州の州都。そこで1984年に、殺虫剤の工場から有毒ガスが流出して。何万人もの人々が亡くなってしまった。奇しくも1984年は俺の生まれた年。

これは仏教的な考えですけど、地球っていう器のなかで命の数は常に均等だとしたら、この事故で死んだ何万人かの命のひとつは、もしかしたら俺なのかもしれない。そういう感覚で気になっていた。

……なるほど。シリアルw。

シリアル(笑)。それと原発。インドの最南端のところにある村では、日本での東日本大震災以降、原発を作るのに反対している。その村もロケハン程度に行ったりして。できれば今年の年末から年始にかけて行きたい。

ここまでインドについて聞いてきたけれど、故郷の北海道もずっと撮っているよね?

撮り始めたのは同じくらいからですよ。

実家はどの辺りなんだっけ? Googleマップでいうと……

積丹町ですね。岩内町というところ。

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山下くんの地元はこの辺り

それにしても、パソコン操作が変わったシステムだよねw。

ああ、右を見ながら打つんですよ。慣れです。

あー。ここですね。昔はニシン漁で栄えた町で。ニッカウヰスキーの余市とか。昔はアホみたいに人がいましたよ。

山下君は不思議な姿勢でパソコンをいじります

山下君は不思議な姿勢でパソコンをいじります

出稼ぎとかで?

そう、内地から来ていた人たち。遊郭もあったみたいで。

へー、いつぐらいから?

その辺りの歴史を、友だちと調べようって話しているところなんですよ。昔の地図に書いてあるんですよ、遊郭って。そのすぐ近くに水子地蔵もあったりして。

原発も近いよね。

泊村っていうところで。ここら辺から定点観測をしている。

じゃあ、実家から見えちゃうの?

うちは山の方なんですよ。でも直線だと10kmぐらい。町があって、海があって、原発がある。そんなに高いところじゃない。

原発の恩恵は受けている村だったの?

うちの町はアホだから、ずっと反対するんですよ。色んな改革に対して。だから大して恩恵を受けていない。周辺はリッチ町村なんですけどね。本当は札幌がこの辺りになるかもしれなかったんですよ。

へー、そうだったの。

ちょうどいい平野だし、海もある。それも反対する村っていう。

愛用の『現場監督』。「こないだ結婚式に呼ばれて行ったら、写真頼まれたんですけど、会場カメラマンいないの。一緒に行った(佐久間)元さんと、これ本気で撮る系じゃないの? でもオレ、『現場監督』しか持ってないんだけど!っていう『現場監督』です」

愛用のカメラ『現場監督』。「こないだ結婚式に呼ばれて行ったら、写真頼まれたんですけど、会場カメラマンいないの。一緒に行った(佐久間)元さんと、これ本気で撮る系じゃないの? でもオレ、『現場監督』しか持ってないんだけど!っていう『現場監督』です」

原発が目の前にあるっていうのは、どういう感覚だった?

普通じゃないですか。

だって、異様なサイズ感の建築物じゃない? 気にならなかったの?

いや、クリーンなエネルギーなんで。そういうこと言うのやめてもらえますか、っていう教育を受けてましたよ(笑)。だから、別にそれがおぞましいという感覚はなくて。それはどこにでもあるものだと思っていました。いわゆる発電所、だから。

電気を作っているだけ、と。

そう。

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ファミコンセット。本体のホコリの被り方、パーフェクト!

原発に対する見方とか、そういうのはどういうきっかけから生まれたの?

樋口健二さんに会ってからじゃないですか。私、授業受けてたんで。なんだこのおっさん、原発ってそんなに危険なものかよ?っていう姿勢から入っていった。私は2007年から撮ってるから、震災はあまり関係ないところから始めていた。

でもちょうど撮り方を変えようと思ったのが、2011年の震災前だった。現地に行って、木田金治郎という画家がいたんですよね。彼の美術館に久しぶりに行って。大したもんだな!と。ジャーナリスティックな感じでそれまで撮っていた。でももっと普通に撮ればいいかなと思い始めた矢先、事故が起きて。

その辺りの写真が写真集『吹雪の日/凪の海』にまとまっていると。それまでインドの流れもあって、報道的な目線もありつつやっていたと思うんだけれど、あの本では私的な眼差しというか、いっこの山下隆博の眼が感じられた。なんで変わったんだろう?

だから、木田金治郎の絵を観たからじゃないですか。この夕陽、いいなあって。もうちょっと、ちゃんとやろうかなって。でもそれが2011年で、震災があったからと思われるのはすごくイヤなんですよ。

あ、唐揚げつくっけど、食うかい?

うん、食うw。

いまつくっから。たくさん焼くよ?

お願いしますw。

ザンギは卵入れるんですよ。こうやってね……(10分クッキング中)

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できたよ。マヨネーズかけるかい? 火ぃ通ってるかは保証できないよ。

え、マジ?w。

火ぃ通ってなかったらチンすればいいって、ばあちゃん言ってたよ。

言ってた言ってたw。旨そう!

じゃあ毒味してみっか。これ、旨いワケないでしょう?……旨い! IMG_2382

www。いただきまーす!

ちょっと酒ついでくっかなぁ。飲んじゃうなぁ。マヨネーズおいしっすよ?

えっ?w。

マヨネーズね、しゃぶりながら飲むの。ホントに。ピザのチラシ観ながらマヨネーズで飲むっていう。すっごい飲めますよ。

どういう味なの?w。

マヨネーズ。

wwwwwww。ちゃんと仕事では稼いでるんでしょう?

うん。今月は30万稼ぎましたよ。でも先月は4万。

なんでそんなに差が?

働いてないから。2月は台湾や実家に行ってたから。

じゃあプロジェクトに依存してくるんだね。

でも今回、展示やる前に米、25kgになったわぁ。

あ、けっこう色んな人がくれるんだ?w。

米が欲しい!って書いてたら、いろんな人がくれる。金はもらえないけれど、米ならもらえるんですよ(笑)。ありがたいですね。米ばっか食ってますよ。毎日2合くらい食ってる。

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そうだ。今回の展示のプリントはいまあるの?

あるよぉ。見るかい?

うんw。

今回は原発デモと福島県の浜通りを対比で見せる内容で。全部で22点。

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デモはかなりストレートに〝デモ〟って感じだけど、対する福島の景色は一見なんの変哲もないように見える。

「震災と人」みたいな感じにしていますね。それって、1年直後にやったらあざとすぎる。あと俺が福島を知らないで、これを福島だと言うことに対する気持ち悪さがあった。

5年っていう月日が経って、ようやくぼくらも冷静に見れるようになってきたしね。

そうそう。少し香辛料を強くしないと、美味しいものだっていう感覚が湧かないじゃない?

ううん?w。

まあ、そんな感じ。

今日はあんまり食べないの?

いやぁ、食べてぇ。

あどうもw。

ソーセージ焼くかい?

いい、いいw。

じゃ、酒飲むかい?

風邪ひいてるからいいw。しかし飲むなぁ。

これでも飲まなくなったんだよ? 昔は4リットルの焼酎、月3本くらい開けてたもん。

愛飲中の焼酎はコチラ

愛飲中の焼酎はコチラ

でもこうして見ると、たとえば原発やデモを考えたとき、誰もがそれをやろうとは思わないところ。撮らなくてもなんとなく分かるから行かないとか。それを丁寧にやってる。

だって行かないと分からないから。それは当たり前じゃないですか。

あのときはみんな、色々考えたと思うんだよね。自分は写真家としてどう震災、原発、放射能と向き合うべきなのか?みたいなのを。

自分が悪者になることを恐れすぎているじゃない? いわゆるドキュメンタリーをやる人間は、みそっかすに言われる覚悟がないと、やっちゃいけない。人の不幸でメシ食おうとしている人間がね。後ろ指を指されたっていいくらいの気持ちが必要でしょう。

ジャーナリストの人たちって、嘘つきだから。劇的に見せたがる。でもそこには彼らの日常があって、それをすくい取ってあげない限り……って、それも上から目線だけれども、そういうことをしないといけないと言い聞かせて、自分で麻酔をかけてる。

行くとアタマおかしくなりますよ。インドの未亡人を撮りながらずっと『らき★すた』観たりとか。そうでもしないとバランス取れない。

それこそキャパの「崩れ落ちる兵士」のときから、写真には演出がつきまとう。

写真は嘘つきですよ。土門拳がいう、絶対非演出なんて存在しない。カメラを持った人間がいること自体が演出なんですから。

パフォーマンスだものね。でも土門拳の生き様はかっこいいと思うけどね。

でも、俺は認めない!

あそうw。

いや、尊敬すべき人だと思いますよ。

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で、なんでインドだったの?

だから、人から勧められて。もともとはスペインの闘牛を撮りたかった。そしたら、いやインドだよと。そうか、カレーも好きだしなって。

闘牛は闘牛で、ここ最近問題になってるもんね。

そうそう。そのあと闘牛がダメになったから、失敗したなって。まあインドで良かったのかなと思いますけどね。人の顔がフォトジェニックだから、どう撮ろうが絵になるし……いや実際、難しいんですよ? 彫りが深いから、日光の下だと顔がつぶれてしまう。日影まで連れて行ってようやく撮れる。

アヴェドンみたく、背景に布おいてるもんね。

あれは浅はかな知恵ですよ。次は暗闇の中でストロボを当てる、っていうやり方をしようと思っていて……

でもさ、同級生から言われて、インドに行って。そこまで魅了された。

想像もしなかったですね。行く直前くらいに深夜特急を渡されるっていうトリックを決められて。いわゆるバックパッカーのバイブル。小林紀晴さんにも影響を受けてて。写真学生っていう単行本。短編を並べてるヤツですけど。それがきっかけで東京に出てきたものある。

もともとは配管工の就職が決まっていたんですよ。それを断わって。

え、なんで?

散々バイトしてたから、そろそろ好きなことやってもいいかなと思って。

早えよw。

え、ダメ? 配管工で金貯めてからいくか、高校を出たらパッと行ってしまうか。それで夜間にしようと思って。あんまり親に金掛けさせたくないから。

それで内定を断わったあとで、やべえ成績評価表が必要だって気づいた。先生に言ったらバレるなと思って。案の定、バレてすげえ怒られました。

wwww。なんて怒られたの?

「勝手に断わんなよ」って。

学校の就職率にも影響するもんね。

すいません!って。写真の学校に行きたいですよって。ろくでもなかったから、教師はそれ以来信用してない(笑)。

それで夜間。

そうですね。昼間に王将で働きながら通ってましたね。

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学校はどこだったの?

日本写真芸術専門学校。あそこで勉強したから、今があると思ってますね。樋口健二さんにも会えたし。鈴木邦弘さんという、私の師匠っちゃ師匠にも出会えた。バイテンを担ぎながらアマゾンに入っていく人。すげえなと思って。自分自身が見てみたいと思っていた世界を撮っている人だった。

アマゾンのなかで、狩猟民族のピグミーを撮って、第18回伊奈信男賞を獲った人。その後、サパティスタ民族解放軍っていうゲリラを4×5で撮ったり。あと難民キャンプを撮って。3部作で「人間が生きることとは」というテーマ。それを見て、すげえなぁと思って。

山下君の話に戻そう。で、今回は原発と東京っていう離れたものを並べると。

勝手に遠い世界の話だと思ってしまうのを、もっとこっちに寄せたい。テレビの向こう側の話じゃなくて。ちょっと車を走らせれば辿り着くかもしれない、各所で起きていること。それはあなたの問題じゃないかもしれないけれど、あなたの問題に〝なるかもしれない〟。それを知ってもらえたら。意識を5ミリ動かすだけなんですけどね。

それね。でもベトナム戦争以来、お茶の間で戦争を眺める我々だから。その5ミリはなかなか難しいことだと思うよ。

うん。1枚の写真で国家が動くかもしれない、みたいなことを思っていた時期もありました。でもなかなか難しいですよね。でもそれを、希望を持ってやらないと。

そう、それを諦めちゃいけない。やるヤツはやる、やらないヤツはやらない。

そもそも写真というメディアの衰退ですよね。映像の方が百倍強いですよ。音あって、動いて。

後日、展示『わすれて、わすれないで、、』を観てきました

後日、展示『わすれて、わすれないで、、』を観てきました

山下先生は、写真の見えないものっていうのは信じてるの?

見えないものは、みなさんの想像力で補ってください。いわゆる、文章における行間を読むじゃないですけれども。ヘンな話、写真だから見えるものというのは、人間の目では認知しきれない時間を止まって見ることができる面白さ。

細部に宿るってヤツね。

それは重要だと思いますよね。キッチンを撮ったとき、そこに住んでない人ですら気づくものが写っている。

無学な俺が言葉に出して言うのもアレなんですけど。アビ・モーリッツ・ヴァールブルクっていうドイツの美術史家が言った言葉で「真理は細部に宿る」と。自分の勝手な解釈ですけど、物事の起因みたいなものは些細なことで変わってしまうかもしれない。

たとえば、テーブルの一部にある雑多なものが少し動いただけで、遅刻しちゃって事故になってしまうとか。そうなりかねない可能性を全ての物事は秘めているとしたら、高解像度で空間を撮るということは、様々な事実の事象の記録になるかも分からない。

そう考えると、大変面白いと思いません?

山下隆博 個展『わすれて、わすれないで、、』より

山下隆博 個展『わすれて、わすれないで、、』より

その辺のことは、タルボットがもう実践してたよね。撮影したときには気づかなかった、建築物の時計が何時何分を示していたとか。「映り込んで〝しまう〟もの」。読者の皆々様、詳しくは赤々舎から刊行中の本『自然の鉛筆』をご覧下さい。

1枚の写真で立ち止まることを許されるのが、写真ですよね。

福島第一原発のときは、目に見えないものをどう写真に写すかってことにみんな躍起になったとじゃない。放射線がフィルムを通ると、それがゴミみたいに映り込むとかさ。

目に見えないものは、撮れません(笑)。写真家が面白いのは、幽霊なんていないよって言いながら、見えないものを撮ろうとするところ。バッカだよなぁ~。

ま、それが人間ってもんなんじゃないw?

 

山下邸にて3時間続いた話し合い。今回の展示は、皮肉以外の何物でもないストレートなテーマだし、デモなんてメディアを通して腐るほど見せられてきたワケだから、なにを今さら、と思うかもしれない。でも彼は『吹雪の日/凪の海』と等しい目線でそれらを見つめていることが、展示を通して理解できた。

彼は言う。「気になるところがあるなら、そこに行ってみないとなにも分からない。見てみないと分からない」。それはきっと、写真も変わらない。実際にその目で見なければ感じられないものがある。彼の展示からはそれが感じられた。デモは過激に叫ぶけれど、その声はどこに向けられているのだろう?と問いかけるように、福島の景色が呼応する。

山下くんが今回見せている飯舘村では、たとえ汚染されても街に戻ってきてしまう人がいるという。オレも2011年の夏、飯舘村に入った。お彼岸の時期ということもあって、多くの住民が戻っていた。線量が高いのは百も承知で、でもご先祖様との繋がりは放射線でも切ることはできなかった。夜、誰もいない飯舘村のアスファルトに寝そべって眺めた夜空には、皮肉にも自分の人生で最も美しく、たくさんの星が広がっていた。

山下くんの写真は衝撃的ではない分、3歳児がYouTubeに夢中ないまの時代、ストイックな面もあるだろう。でも理解しようという姿勢を忘れたくない。写真は言葉を投げかけないけれど、言葉では伝えきれないものを投げかけてくれているのだから。オレたち日本人があの日を区切りに背負うことになったものは5年の歳月を経ていくぶん薄まったようにも感じるけれど、まだまだ忘れることは許されていない。

オレたちが一瞬でも忘れたとき、写真家たちは言葉にならないカタチで再び教えてくれるだろう。山下隆博もその一人だ。

 

【過去の記事】『白雪の青年が試みる、血と大地との言葉なき対話。』
http://www.tomokosuga.com/articles/book-blizzard-day-calm-sea/

【山下隆博くんのサイト】http://takahiro-yamashita.co.uk/

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2011年に起きた東日本大震災。それに伴って起きた福島第一原発事故後の福島県浜通りを中心に人物や風景を撮影した写真。そして、東京都心部で行なわれてきた原発関係のデモとそれが行なわれる事の多い場所の風景を撮影した写真。
電力を供給していた場所と電力を需要していた場所。5年が経った今現在それぞれの写真を同じ空間に閉じ込めて観る。という事がどういう事なのだろうかと思いながら展示をします。

2012年同ギャラリーで展示をした「わすれて、わすれないで、」を継続して撮影したものです。

本展示は、小野淳也様の企画展となります。

 

info

山下隆博写真展
『わすれて、わすれないで、、』
TAP Gallery
東京都江東区三好3-2-8
2016年3月8日(火)→ 3月20日(日)
13:00-19:00
月曜
http://tapgallery.jp/

 

この記事の著者

トモ・コスガ

トモ・コスガ

1983年生まれ、編集者。フォトグラファー・新田桂一に師事後、VICE MAGAZINE JAPAN編集部、EYESCREAM編集部、VICE MEDIA JAPANを経て独立。現在は故・深瀬昌久の作品管理と普及を目的とする「深瀬昌久アーカイブス」ディレクターを務めながら、主に写真関連の記事を書いたり、家事をしたり、ジムでマッチョを夢見たり、クワガタを飼育・採集、と多岐にわたって活動中。

http://www.tomokosuga.com/

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