イランの巨匠アッバス・キアロスタミが詩と情熱に満ちた眼差しの先に見据えたものとは。

今年も東京国際映画祭がやってきた! あのメリル・ストリープも東京までやってきた! 世界中の最新映画が東京に集結する、この1週間。TSK(ちぇっ)では、写真を連想させる上映作品に絞って紹介しよう。

キアロスタミとの76分15秒

『キアロスタミとの76分15秒』
東京国際映画祭での一般上映は10月30日(日)、11:40から

今年7月に76歳で亡くなったイランを代表する巨匠、アッバス・キアロスタミ。本作は、彼の撮影現場や日常の合間を断片的に見せることから、その素顔や日常を詩的にえがいて見せた追悼ドキュメンタリーだ。といっても、映画制作の現場を仕切る監督としてのキアロスタミというよりは、どちらかというと、一人の写真家としての彼を目撃できる映像に仕上がっている。そう、彼は映画監督でありながら、優れた写真家として実にポエティックな写真作品をいくつも世に遺していた。

© Abbas Kiarostami

© Abbas Kiarostami

イランはテヘラン生まれのキアロスタミは、1987年に監督を務めた『友だちのうちはどこ?』で注目され、1997年公開の『桜桃の味』でカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールに輝いた。そして2010年公開の『トスカーナの贋作』では、主演を務めた女優ジュリエット・ビノシュがカンヌ映画祭の主演女優賞に選ばれた。キアロスタミ最後の長編監督作となったのは、日本を舞台に撮影された2012年公開の日仏合作『ライク・サムワン・イン・ラブ』。東京国際映画祭との縁も多く、『そして人生はつづく』(1992年コンペ出品)から『シーリーン』(2009年出品)に至るまで、実に多くの作品が上映された。

© Abbas Kiarostami

© Abbas Kiarostami

かように映画人として活躍してきたキアロスタミだが、その一方で、優れた写真家としての顔も持ち合わせていたことはあまり知られていない。本作『キアロスタミとの76分15秒』では、映画撮影に明け暮れるキアロスタミというよりはむしろ、イランに広がる風景を写真に収めようと没頭する姿を目の当たりにする。

地平線に向かってどこまでも広がる雪道に残された轍(わだち)、雪中を駆け巡るキツネ、雨降る日に車窓に浮かび上がる風景。かくも豊かなイランの大地に驚きながらも私たちがこの映像を通して確かめられるのは、キアロスタミがなにをきっかけにシャッターを切るのかという事実だ。それはシンプルに、眼前の景色が彼自身の琴線に触れたとき。だから彼はシャッターを切るたび、感動の声をあげるのだ。

「写真とは、映画の母である」——。これはキアロスタミの言葉だ。彼が映画を作り上げるうえで、いかに写真というものが欠かせないものであったかが窺い知れる。

それにしても、キアロスタミがイランの広大な大地を写した写真はアンセル・アダムスの陰翳礼賛を思わせ、また雨の日に車の窓ガラス越しから写した風景はソウル・ライターのユーモアを想起させるではないか。生前、小津安二郎を敬愛してやまなかったキアロスタミ。構図の形式美を越えて、画に世界を持たせることとはどういうことか。目の前に広がる景色だけで完結させることなく、観る人がさらに想像することから膨らむ〝スケール〟とは。

本作を通じて確かめられるキアロスタミの写真撮影から、眼差しの美学が滲み溢れていた。

© Abbas Kiarostami

© Abbas Kiarostami

ちなみに東京国際映画祭での本作上映では、もう1本の映像作品が併映される。

『Take Me Home』(私を連れて帰って)と題された16分のショートムービーは、今年キアロスタミがカメラを持って訪れた南イタリアが舞台だ。アンリ・カルティエ=ブレッソンの路地写真を彷彿させる美しいブラック&ホワイトに浮かび上がる路地や階段。そこを、とあるものが駆け巡る。この短編作品が生涯最期の作品となったキアロスタミ。映画と写真を突き詰めた彼ならではの美学を堪能できること間違いなし。

アッバス・キアロスタミを追ったドキュメンタリー『キアロスタミとの76分15秒』とキアロスタミ最期の作品『Take Me Home』は、東京国際映画祭で10月30日11:40に上映されます。恐らく日本では今後、ユーロスペース辺りで観られる気もしますが、気になったら10月30日(日)の上映に滑り込みましょう。東京国際映画祭のウェブサイトから予約ができますよ!

東京国際映画祭ー『キアロスタミとの76分15秒』
http://2016.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=325

この記事の著者

トモ・コスガ

トモ・コスガ

1983年生まれ、編集者。フォトグラファー・新田桂一に師事後、VICE MAGAZINE JAPAN編集部、EYESCREAM編集部、VICE MEDIA JAPANを経て独立。現在は故・深瀬昌久の作品管理と普及を目的とする「深瀬昌久アーカイブス」ディレクターを務めながら、主に写真関連の記事を書いたり、家事をしたり、ジムでマッチョを夢見たり、クワガタを飼育・採集、と多岐にわたって活動中。

http://www.tomokosuga.com/

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